【悪者見参】スポーツの視点から旧ユーゴスラビア紛争を見る

スロベニアの歴史

本棚に眠っていた、木村元彦さんが書いた「悪者見参」という本を数日かけて読破しました。日本語ですから、どの言語で読むよりもサクサク行くはずが、内容が濃く勉強してきた内容と確認したりしながら、じっくり読み進めることとなりました。サッカーが大好きな人はもちろん、旧ユーゴスラビアのこと、バルカンのこと、現代のセルビアやコソボ情勢に興味がある方はぜひ手に取っていただきたい一冊です。

この本が書かれた時代背景は、スロベニアやクロアチアが旧ユーゴから独立した後のワールドカップのことです。旧ユーゴそしてセルビアサッカー界の大英雄ドラガン・ストイコヴィッチを筆頭に日本でも活躍したセルビア人、モンテネグロ人、クロアチア人そしてコソボ系アルバニア人たち選手の視点を大事に、プロのスポーツ選手がユーゴ崩壊の影響でどのような状況に置かれてしまったかを描いています。

どうしてもロシアとウクライナの戦争により、様々なスポーツ大会でロシア人選手の方々が出場停止になってしまった状況を思い出したり、2022年のワールドカップにも思いをはせたり、政治とスポーツはつながっているんだと思わざる負えない内容でした。

「悪者=セルビア」のイメージ

なぜセルビアが悪者になったのかということですが、これは1991年に始まった旧ユーゴスラビア紛争にさかのぼらないと説明できません。

そもそも崩壊の原因となったのは、当時のセルビア大統領、スロボダン・ミロシェヴィッチがコソボ(当時はユーゴの自治区でコソボはセルビアの一部でした)に住んでいたアルバニア人に対してある制裁を科すなど攻撃をしたことが発端でした。当時はコソボ系アルバニア人によって、コソボに住むセルビア人がひどい目にあっていたという事実があり、セルビア人を守る目的でミロシェヴィッチ氏が行動を起こしました。

彼の主張はセルビア第一主義、大セルビアを作ろうとしている、他の民族を排除する発言だという印象を与えてしまいます。

他の構成国はミロシェヴィッチに反発する形で独立を主張し、そこからスロベニアは10日という短い戦争の果てに独立を果たしましたが、残りの国々は何年も続く旧ユーゴ紛争に突入することになりました。そして一番複雑だったのはセルビアとコソボの戦争です。1999年にNatoがセルビアに空爆をするという形でユーゴ紛争が終わるという形で終結しました。

第二次世界大戦後、ヨーロッパでは初の戦争となり歴史上初めて国際的にユーゴスラビアという国にスポットが当たったと思います。そしてその時世界中の人々は、ユーゴスラビアというのは異なる国が合体した多民族国家で他宗教多言語の国だ、ということを知るのです。

そしてその多様性が戦争や崩壊の原因とされ、後にアメリカ、国連、Natoは本当にユーゴスラビアの実態を知らぬままセルビアに空爆を落とし、悲惨な形で事態は終結します。そしてセルビアが「悪者」というレッテルを貼られてしまった、という感じで外部の人がやったことは旧ユーゴの人々にとって最善だとは思えないわけです。

 

多様性は問題ではなかった

どうにか内部の問題を解決するために、旧ユーゴスラビアの政治家たちが民族主義的な感情をあおったのは事実だとしても、多様性は問題ではありませんでした。

事実として戦争が始まる前は、色々な民族が共存して宗教も言語も関係なく、平和にやっていた事実があります。自分が何民族ということを気にしないし、混ざり合ったのが普通という価値観で、多様性は決して戦争の原因ではなかったのです。むしろ一般市民は自分が何人と気にすることなく過ごしていたんです。

むしろ戦争後、この民族の分裂が始まりました。

本の中では、セルビアがNatoによる空爆の中、家族の安否もリアルタイムで確認できぬまま旧ユーゴスラビアのサッカー選手たちはユーロカップ2000の予選や練習試合、自分のプロリーグでの試合をこなす様子、何度も国際大会で出場停止または試合延期という理不尽極まりない状況下のなかジョークを忘れず過ごす様子が書かれています。

セルビアというだけでハンガリーの国境警察に不当な取り調べを受けたり、飛行機に乗れなかったりと理不尽につぐ理不尽な出来事を潜り抜けなければならなかったなんて。だまって300€払って取り調べを逃れるシーンは怒り心頭でした。

旧ユーゴとクロアチアの試合で、露骨にサポーターが嫌悪感をむき出しにしたり、当時のクロアチア大統領、フランヨ・トゥジマンもそれをサポートしていたなんて。

多くの旧ユーゴスラビアのサッカー選手は日本で活躍しており、当時プレスに対してこの空爆に対して意見を述べております。すでにセルビアに対する国際社会の目が厳しく、政治家ではないスポーツ選手が冷静に状況を判断し、会見しないといけなかった状態はひどいとしか言いようがないです。

改めてお勧めの一冊

ドラガン・ストイコヴィッチが表紙の著書。背景を知ってこの本を見ると熱くなりますね。

また著者の木村氏は、何度もセルビア、クロアチア、コソボ、モンテネグロ、マケドニア、スロベニアにも足を運び当時の状況を取材して記録して、圧巻の文章力で書き上げたこの本は傑作です。彼の情熱がひしひしと伝わってきて、感動しました。危険でいっぱいだったあの当時の旧ユーゴでの記録は大変貴重なものだと思います。

歴史をこういった切り口で語ることができることに感激し、実際に足を運んで現地をみることの大切さを痛感しました。

歴史って本当にこれでご飯を食べるのは難しいけど、また青春のきらめきがよみがえってきました。もっとこのブログでも紹介できたらと新たな目標が新年にできました!

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